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2012年2月 9日 (木)

幻の珈琲

その店は天文館にあり、長いパイロット生活の後、『N珈琲店』を開店した。店主のK氏は民藝に造詣が深く、立派な木造の戸棚には、お気に入りの作家の陶磁器やガラス、人形などの調度品が季節ごとに、きちっと並べてあった。カウンター正面の棚の扉には、陶板に焼き付けられた珈琲の赤い実が描かれていた。珈琲の分量を量るハカリ、淹れる道具も年代的な趣があった。そして、店主自ら淹れるのが主義であるといった。本当に美味しかった。ある日、『「イエメン」の山岳高地で美味しい珈琲が取れるのを知っていますか?』と真面目な顔で聞かれた。現地に行くには部族長の許可と道案内人がいないと生きて帰れないらしい。道なき道を四輪駆動車で駆け上る。美味しい珈琲が取れる条件は、寒暖の差があり、赤道から±5度の緯度の範囲にあるという。・・・など、話しが弾んで帰るとき、今度「イエメン」に行ったらとっても美味しい豆を持ってくるので、ぜひ味わってほしいといわれた。その後、暫く多忙のため遠ざかっていたが、ある日突然、閉店の張り紙を見たのである。大変驚いて知人に聞いてみると、「イエメン」旅行後、急逝されたとの事だった。今でも信じられず、店の近くを通るたびにK店主と「イエメン」の幻の珈琲を思う。(勉)

 

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