上司とYS-11
三十数年前の屋久島出張は、ホーバークラフトなどなく飛行機(YS-11)で行くのが普通であった。屋久島は、海岸から九州一の宮之浦岳までは一気に上るため急峻で、気流の流れが速い。天候不順の時は、離着陸に機体が上下左右激しく揺れる。ある時、仕事で上司と搭乗したことがある。生憎、台風の余波で大荒れ、屋久島に近づくに従って激しく揺れだした。上司は飛行機が苦手であったが、外に手段はなく途中からのUターンに望みを託して乗り込んだ。しかし、着陸には何ら問題はないとの機内のアナウンス。空港に近づくに従って激しく上下に揺れだした。その内、私の手を握る感触があった。隣の上司が青い顔をして、しっかりと握っているではないか。『溺れる者藁をもつかむ』とはこの事か。無事着陸したが、内心怖かったのは飛行機だけでなく上司の方だったのだ。(勉)