「ぜったい、やまたろう蟹」
小さい頃、やまたろう蟹をよく食べた。父の蟹好きを知っていてよく売りに来ていた。山でどうして蟹が獲れるのか不思議だった。蟹達は、ブリキのバケツに蓋をして閉じ込められていた。ところが、どうやって脱走するのか、土間を這いずり回ったり、つわものは、家の中までやってきていた。バケツの中のゴソゴソする音や、いつのまにか傍にやってきている蟹が怖くて逃げ回った。
でも真っ赤に茹で上がった蟹のみそは最高だった。父に負けないくらいたくさん食べた。
冬がくると「ぜったい、やまたろう蟹が一番だ」と言っていた父を想う。最近、あの上海蟹も仲間と知った。(由)